【砂雪】
「今ここで、正確にすべてを伝えることはできないわ」
【砂雪】
「ただひとつ言えるのは、今の私たちが富と名声を得るためには、ゲームを作ることがもっとも早道だということね」
【砂雪】
「どう? ここまで聞いて、興味は出た?」
俺は考えた。深く深く考えた。
【文太郎】
「話はわかったよ。ちょっと考えてみる。けどさ、どうして黒田さんはゲーム作りをしたいの?」
【砂雪】
「とても一言では語り尽くせない思いがあるわ。でも、今これだけは言える」
彼女は夕日をバックに、静かな、だけど力強い声で言う。
【砂雪】
「野望を胸に燃やす者のみが、この苛酷な荒野で夢に挑むことができる!」
【文太郎】
「や、野望……!」
夕日の効果もあってか、衝撃は強いものだった。
【テルハ】
「そりゃーすげーけど、自分に厳しいのにシナリオ遅れてるわけ?」
【文太郎】
「……それはまあ、なかなか思い通りには……」
モヤモヤは執筆の原動力になる。
モヤモヤを常時補充できれば、最高のエネルギーとなる。
そのためには?
【文太郎】
「ご褒美ってんじゃないけど、苦しいだけなんだけど、頼みがある」
【文太郎】
「今みたいなので俺にプレッシャーをかけ続けてくれ」
【テルハ】
「さっきまでのウザい感じのを続けりゃいいってこと?」
【文太郎】
「ああ、できるだけ鬱陶しくせっついてくれ」
【テルハ】
「おいおい、途中でいきなりキレるとかはなしよん?」
【文太郎】
「……マジで寝れないんだよ、進捗的に」
ということで、煩悩常時補充シフトが幕を開けた。
【砂雪】
「……46キロバイト。一日で進めたにしてはたいした量ではあるけれど……」
【文太郎】
「やっと半分だったのか……で、時間は夜の十時か」
【文太郎】
「ごめん、黒田さん。このまま朝まで続けたとしても……たぶん終わりそうにない」
【砂雪】
「そう……」
少し表情をこわばらせる。当然だ。
【文太郎】
「すでにだましだまし書いてる段階だし、能率はこれから悪化する一方だと思う。だから不甲斐ないことなんだけど、ギブさせてくれ」
【砂雪】
「……北条君はすごく頑張ってくれた。だからご褒美をあげてもいい」
【文太郎】
「本当に? けど俺、期待を裏切ったんだよ?」
【砂雪】
「予想は裏切られたけど、期待はまだ裏切られてはいないわ」
言いながら近寄ってくる黒田さん。